書きたいことを絞り込む

自分史を書くことに腰が重くなるのは、どこから手をつけていいか、どんなふうに形 にしたらいいか分からないためです。広大な大地を前にしてどのように耕したらいいか 途方に暮れる気持ちと似ていると思います。何しろ、六十年、七十年も生きてきた広大 な時聞を、コンパクトにまとめようというのですから、大変な作業に思えてくるのは当 然です。この、広大な時聞を一挙に凝縮して、ある形に仕上げようと考えると大変な作業のよ うに思えますが、時間を区切って一つ一つ解決していくようにすれば、それほど大変な ことでもありません。部分部分で、一つの随筆を書いて、それを集めて自分史にするとい うことなら、それほ、と大変なことではありません。すなわち、自分の生涯のいくつかの区分において、書きたいと思うことを絞り込めばいいわけです。あれもこれも書きたい と欲張らないで、これだけはぜひ書きたいと思うことだけを書けばいいわけです。 例えば、『幼児期』という区分で書こうとした場合、自分の書きたいと思うことを取り あえずピックアップしてみるといいと思います。 人それぞれの生活環境で、思い出も書きたいととも違うのは当然ですが、例えば『幼 稚園でのいじめ』『初めてのお使い』『従兄弟との遊び』『野良犬のポチを拾ったときの思 い出』『ふるさとのお祭り』『甘いお菓子の記憶』『ふるさとの風景』『祖母の死』『川遊び』 『兄弟喧嘩』など・::::、いろいろとあるに違いありません。 当事者にとって、どれも懐かしい記憶に彩られていたとしても、その中から、二っか 三つに絞り込んで書くのがコツです。記憶や思い出の全部を書きたいと思うとおっくう になるし、場合によると、全部書くことで、かえって散漫になってしまうことがありま す。書きたい乙とを、二つか三つに絞って書く乙とで、幼児期の全体を浮かび上がらせ ることができれば、これは大変な技術ですし、大成功と言っていいでしょう。

区切り方は自由ですが、仮に、小学校時代、中学・高校時代(集団就職)、初恋、大学時代、サラリーマン時代、恋愛・結婚、子供・教育、単身赴任・ゴルフ、海外旅行、定年、 老後:::というように、区分を決めて、それぞれの中で二つか三つのエッセイで、一区切りをつけるという方法なら、それほど抵抗はなく書き出すことができるのではないで しょうか。